ぱと隊長日誌

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プロジェクト・マネジメントのためのスケジューリング理論の基礎を学ぶ

はじめに

プロジェクト・マネジメント・ソフトウェア(例えば Microsoft Project)を使いこなすにはスケジューリング理論の基礎を理解していることが必要です。
現場ではプロジェクト・マネジメント・ソフトウェアが勝手に日程をずらす!とか、組みたい日程で設定させてくれない…というぼやきをよく聞きます。ですが、これらの挙動はプロジェクト・マネジメント・ソフトウェアが設定されたタスク・リソース・順序関係・制約からスケジュール理論を基に最適解を導き出そうとした結果であることがほとんどです(まれにバグやソフトウェアの制約のこともありますが)。つまり、プロジェクト・マネジメント・ソフトウェアの基礎をなすスケジューリング理論を学ぶことで、それらの挙動の理由を知り、真価を発揮することができるのです。
本エントリではプロジェクト・マネジメントのためのスケジューリング理論の基礎を学ぶことに役立つ資料を紹介します。

書籍

建設エンジニアのためのPMSによるプロジェクト計画入門―基礎からリスクスケジューリングまで

建設エンジニアのためのPMSによるプロジェクト計画入門―基礎からリスクスケジューリングまで

建設エンジニアのためのPMSによるプロジェクト計画入門―基礎からリスクスケジューリングまで

この本のタイトルは2つの点で損をしています。それは、建築エンジニア向けをうたっていること、そしてPMSという耳慣れない略語を使っていることです。

まず、この本の対象読者は建設エンジニアに限定しません。スケジュール管理に関わる全てのマネージャそしてエンジニアが対象となります。説明例は主に建設にかかわるものですが、スケジュール管理に関する基本的な部分は業種を問わず適用できます。

また、PMSという略語は"Project Management Software"のことです。具体的には以下のようなソフトウェアのことです。

  • Microsoft Project
  • ProjectLibre
  • Artemis Schedule Publisher
  • Primavera

この本ではスケジューリング理論の基礎から実際のプロジェクト管理の方法まで幅広くカバーしています。また、説明例は建設にかかわるものですが、専門的な用語は少なく、他業種の方でも内容を十分に理解することができます。
また、日本語でスケジューリング理論の基礎に関して説明した数少ない本です(本屋、AmazonGoogleで探しましたが他に見つかりませんでした)。スケジュール理論を勉強するための入門書としてお勧めします。

本の目次から主だったトピックを挙げます。

  • プロジェクト計画の立て方
  • リソースを考慮した計画
  • ネットワーク工程計画法
  • クリティカル・パス法 (CPM)
  • 実施フェーズにおける進捗管理
  • リスクを考慮したプロジェクト計画

また、後述する mosaic の Core Scheduling Papers の一部を含んだ内容となっています。この本で概略をつかんだうえで、Core Scheduling Papers を読み進めると理解しやすいです。例えば、以下のような内容が含まれています。

  • アロー型モデルとプレシーデンス型モデルの違い
  • 順序関係(FS, FF, SS, SF)
  • フロートの種類(トータル・フロート、フリー・フロートなど)
  • タスクの中断

Mosaic Core Scheduling Papers

オーストラリアの Mosaic Project Services Pty Ltd は自社のウェブサイトでプロジェクトの計画とスケジュールに関する資料を公開しています。
Planning and Scheduling

その中に Core Papers として公開された資料があります。この中から特に有用と思われる資料とそこで説明されているトピックを以下に挙げます。
全て英語ですが、ここで挙げた資料は図が豊富に使われており比較的理解しやすいです。英語が苦手な方も理解できるところからつまみ読みしてはいかがでしょうか。
資料によってはトピックが重複していることもありますが、異なった視点から議論しているため、併せて読むことをお勧め増します。

Links, Lags and Ladders - the subtleties of overlapping tasks -

http://www.mosaicprojects.com.au/PDF/Links_Lags_Ladders.pdf

  • 順序関係 (FS, FF, SS, SF)
  • リードとラグ
  • オーバーラッピング・アクティビティの管理
    • 順序関係の論理的矛盾
    • ラダー
  • ハンモック・アクティビティ

Calculating and Using Float

http://www.mosaicprojects.com.au/PDF/Schedule_Float.pdf

  • ADMとPDMにおけるフロートの扱い
  • フロート計算
  • カレンダーとフロートの関係
  • ネガティブ・フロート
  • ハンモック・アクティビティ(サマリー・アクティビティ)

Basic CPM Calculations

http://www.mosaicprojects.com.au/PDF/Schedule_Calculations.pdf

  • アクティビティの要素と定義
  • PDMのスケジュール計算
    • 順序関係 (FS, FF, SS, SF)
    • 制約
    • 複数の先行/後続アクティビティ
    • オーバーラッピング・アクティビティ
  • フロート計算
  • カレンダーとスケジュール計算

記事・ブログ

DRAGとCostの解説

納期が延びる要因を指標化する - スケジュールのDRAGとはどんな尺度か : タイム・コンサルタントの日誌から
Drag Cost - 納期を加味した真のコストを考える : タイム・コンサルタントの日誌から

DRAGとはあるアクティビティがクリティカル・パスに対してどれだけ影響しているかを計るための指標です。また、これにCostを加味することで、クリティカル・パス短縮のために攻めるべきアクティビティをコストの観点から検討することができます。

英語版Wikipediaで"Critical path method"の解説を見ると、"Critical path drag"が度々登場しています。対して、日本語版Wikipediaの"クリティカルパス法"の解説ではDRAGについて触れられていません。DRAGの日本での普及はまだまだのようですが、今後に向けて知っておくべき手法と思われます。

本ブログのエントリ紹介

本ブログではここまで紹介してきた資料をベースにしたエントリを公開しています。以下に紹介させていただきます。

ADM(アロー・ダイアグラム法)、PDM(プレシデンス・ダイアグラム法)、AON(アクティビティ・オン・ノード)の違い - ぱと隊長日誌
ADM / PDM / AON は表現の違いに着目されがちですが、順序関係の扱いや歴史的経緯まで含めて比較を行いました。

ADM(アロー・ダイアグラム法)及びPDM (プレシデンス・ダイアグラム法)におけるタイミングとフロートの計算方法 - ぱと隊長日誌
ADM / PDM を明確に区別した上で用語の定義と計算式を説明しています。また、同じことを指す場合でも資料によって異なる名前を使う場合があるため、よく使われる別名も併せて記載しています。

PDM (プレシデンス・ダイアグラム法)のスケジュール計算における制約の影響 - ぱと隊長日誌
PDMにおいてはアクティビティに対する制約を考慮したスケジュール計算をする必要があります。また、それによってネガティブ・フロートを発生する場合があることを示しています。

PDMにおいてSS/FF関係を持つアクティビティのトータル・フロートのパラドックスを解消する - ぱと隊長日誌
PDMで前後のアクティビティとSS/FF関係を持つアクティビティにてトータル・フロートにパラドックスが生じるケースを説明し、その解決策を提示しています。

スケジュール計算とラグとカレンダーの関係 - ぱと隊長日誌
スケジュール理論を議論する際にカレンダーはしばしば無視されます。ですが、実際のプロジェクトでカレンダーを適用したときに考慮すべき点をまとめています。

おわりに

ここで紹介した資料以外にも役に立つもの、参考になるものがまだまだあると思います。ご存知の方はぜひ本エントリのコメントやTwitter(@)などでご教示いただければ幸いです。

知らないことを知り、知る過程の大切さ

知(し)らざるを知らずと為(な)す是(これ)知るなり
《「論語」為政から》知らない事は、知らないと自覚すること、これが本当の知るということである。

知らざるを知らずと為す是知るなり(シラザルヲシラズトナスコレシルナリ)とは - コトバンク

疑問・問題には解決・答えに至るまでの過程(プロセス)があります。そして、その過程は結論とともに残すべきです。

まず、「知らない」ということを知ったこと自体に価値があります。そして、それはきっと世界のどこかで誰かが悩んでいることでもあります。
それが解決、もしくは道半ばだとしても、文章や映像、言葉として残せば、知識と経験の共有となります。もしかしたら、さらに議論が発展するかもしれません。

知らない⇒知るに至った過程はとても大切です。
何がきっかけで知らないことを知ったのか。どうやって調べたのか。その過程でどんなことに躓き、解消したのか。結果何を得たのか。

知らないことに対して誰かが出した結論だけ知りたいと思うこともあるでしょう。
でも、その誰かが結論を出すに至った過程は自分が問題を理解するための過程でもあるのです。もしその過程を知らなければ、過程を自分で再発見するか、表面的な理解にとどまることになります。

そして、調べた本人もまた、過程の記憶は時間とともに薄れていきます。だからこそ、その過程を記録に残しておく価値があるのです。
その記録は別の課題を調べる際のヒントになるかもしれません。

繰り返しとなりますが、あなたが知らなかったことはきっと誰かが悩んでいる、もしくはこの先悩むことです。そして、結論だけでなくその過程を示すことはその疑問・問題だけでなく、他の疑問・問題に立ち向かうヒントとなるかもしれません。それは共有すべき価値ある情報です。
私にとってブログは共有のツールの一つですが、どんなやり方であってもいいと思います。

あなたのひと手間が、公開する勇気が、世界の誰かの助けとなります。

自身の不安・妄想を受け流す技術

だれしも不安・妄想にとらわれることがあります。例えば、私であれば「自分は話下手だ。相手を楽しませることができていない。」というのはよく感じます。同じかもっと深刻な不安・妄想にとらわれる方もいることでしょう。
なぜこんな不安・妄想にとらわれるのか、 この不安・妄想をどうしたら払しょくできるのか、ということに以前から関心がありました。

そんな中、『反応しない練習 あらゆる悩みが消えていくブッダの超・合理的な「考え方」(中経出版)』を読んでいて、ストンと心に落ちる説明がありました。今回のエントリではその考え方をまとめます。

この本で他人の目が気になる心理の正体は「承認欲」であるとしています。ですが、それ自体は否定しておらず、当たり前のものとしています。
ではなぜ「他人の目を気にしてしまう」のか。それは「認められたい」欲求に反応して「どう見られているのだろう」と妄想する、”承認欲が作り出す妄想”であると。そして、その妄想から抜け出すためには「妄想に過ぎない」と自覚することがコツとしています。

そして、「妄想には際限がない」とも説明しています。

妄想は、どんなに最悪なものでも、簡単に思い浮かんでしまうものです。破廉恥だったり、残酷だったり、人には決して言えないようなイケナイ妄想でも、脳はたやすく作り出してしまいます。これは「夢」の世界も同じです。
そもそも脳は、見聞きしたすべての情報を”反応の記憶”として取り込んでいます。見たもの、聞いたもの、本人は気づいていないことさえ、実は脳は反応して、記憶として蓄積しているのです(中略)
しかもそれぞれの記憶が、複合して「見たことのない妄想」を作り出すこともあります。

また、別の章では「心は無常(うつろいゆくもの)である」としています。

心理学の一説には、心は1日に「7万個」もの概念を思い浮かべるのだそうです。「約1.2秒で1個の思い」です。心というのは、それくらい目まぐるしく回転しつづけているのです。

これについては自身も実感があります。寝る前に瞑想の時間を設けているのですが、呼吸に集中しようとしても、度々思考に邪魔をされます。むしろ、そういうときのほうが普段思いつかないようなアイディアが浮かんできたりします。心は考えることが好きなのかもしれません。

ですが、心が考え続けることと妄想が結びつくと、必ずしも良いことばかりとは限りません。楽しい妄想であればよいのですが、辛く苦しい妄想が始まってしまうと、考えようとする心を止めることは困難です。止めようとすることでより思考が集中し、さらに妄想が広がることになります。

自分にとってこの本が助けとなったのは、この妄想という反応が心の自然な作用である、と納得することができたことです。自然なことであれば、それを肯定も否定もせず、ただ妄想による心の動きを客観的に見ていよう、そう考えられるようになりました。

そうすると、「自分は話下手だ。相手を楽しませることができていない。」という悩みに対する自身の受け止め方も変わってきました。妄想を抑え込むことに心のエネルギーを割かずに済み、落ち着いて振り返ることができるようになりました。
「あなたは話下手ではない」と何人もの方が言ってくれたな。自分も心から楽しく話せているときがあるな。相手によって楽しいと思うポイントは様々だし、相性も様々だよな。そうやって、事実を見つめなおし、そこまで悲観することではない、と思い直せるようになったのです。

自分はまだ全ての(不安な)妄想をコントロールできているわけではありません。衝動的に発生した妄想が心の余裕を使い尽くし、そこに心がとらわれることはあります。もしかしたら、心の器をより広げることが必要なのかもしれません。そして、そこに至るには技術と経験と試行錯誤がより必要なのだと思います。今回、この本に出合ったことはそのステップだと思うのです。

この本ではブッダの考え方について著者が解釈したことをベースにまとめられています。私としては賛同できるところ、うーんなところ、共にありますが、一読することで今回のようにヒントが見つかるきっかけとなるかもしれません。